2013年度後期 第2回 細胞生物学セミナー

日時:1029日(火)17:00~

場所:総合研究棟6階クリエーションルーム

Lysigenous aerenchyma formation in Arabidopsis is controlled by LESION SIMULATING DISEASE1

Mühlenbock, P., Plaszczyca, M., Plaszczyca, M., Mellerowicz, E., Karpinski, S. (2007)

Plant Cell 19: 3819-3810

シロイヌナズナにおける破生通気組織形成はLESION SIMULATING DISEASE1によって制御される。

 

通気組織は植物の根や茎などに発達する空隙であり、シュートから根へ酸素を補給するための通路となり、冠水土壌における低酸素環境に馴化するために重要である。トウモロコシおよびコムギを含む畑作物における通気組織についての多く先行研究により、エチレンが破生通気組織の発達における重要なシグナルであり、その形成はプログラム細胞死(Programmed Cell DeathPCD)により起こることが示唆された。しかし、通気組織形成におけるPCDを制御する遺伝子は未だ明らかとなっていない。植物のPCDと遺伝子の関係については多くの研究が行われていて、シロイヌナズナの葉における病原体に対する防御応答時のPCDと強光ストレスによる葉のPCDLESION SIMULATING DISEASE1LSD1)、PHYTOALEXIN DEFICIENT4 (PAD4) ENHANCED DISEASE SUSCEPTIBILITYEDS1)などの遺伝子によって制御されることが発見された。これらの遺伝子は活性酸素種(ROS)をコントロールしている。これまで、シロイヌナズナにおいて通気組織が形成されることは示されていないが、シロイヌナズナが低酸素環境へ馴化するために通気組織形成が機能する可能性はある。そこで、本研究ではシロイヌナズナにおいて通気組織を形成させ、エチレンとROSシグナル、そしてLSD1PAD4EDS1が通気組織形成時のPCDと関係しているか否かを明らかにすることを目的とした。

 シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana L. ecotype Wassilewskija[Ws-0])を12週間生育し、冠水処理を行った。冠水処理7日目において根から胚軸にかけて二次木部の軸方向柔組織細胞が崩壊し、通気組織が観察された。また、DAPI染色によって、冠水7日目の根から胚軸にかけて、PCDを起こした細胞に特徴的に見られる核凝縮と三日月形の核が観察された。低酸素応答はいくつかの被子植物において葉の気孔の閉鎖に関係しているため、シロイヌナズナの葉における気孔コンダクタンスを測定したところ、冠水処理をした8日間において連続的な減少が見られた。気孔コンダクタンスの減少は光ストレス応答時のH2O2生成増加において重要である。そして冠水条件下のシロイヌナズナが光ストレスに曝露されたとき、通気組織形成が促進されることが観察され、光ストレスシグナルと通気組織形成を引き起こすシグナルが共通していることが示唆された。また、シロイヌナズナにおける通気組織誘導がエチレンやROSと関係するか否かを調べるために、胚軸において、エチレン合成の前駆体であるACCと過酸化水素(H2O2)のレベルを測定した。H2O2レベルは徐々に増加し、ACCレベルは6日目以降に著しく増加した。この結果より、シロイヌナズナにおける低酸素条件下での通気組織の誘導は、H2O2とエチレンシグナルによって引き起こされるPCDであることが示唆された。

LSD1PAD4EDS1と通気組織形成の関係を明らかにするために、野生型(Ws-0)とLSD1EDS1PAD4それぞれの機能欠損変異体であるlsd1eds1-1pad4-5と、eds1-1/lsd1二重変異体、pad4-5/lsd1二重変異体において通気組織形成を比較した。7日間冠水処理をした胚軸における横断切片像より、二次木部の単位面積当たりの通気組織面積の割合を求めたところ、lsd1Ws-0と比べて有意に大きかった。eds1-1/lsd1pad4-5/lsd1Ws-0とほとんど差が無く、eds1-1pad4-5Ws-0eds1-1/lsd1pad4-5/lsd1と比較して有意に小さかった。これより、破生通気組織形成においてLSD1が負の調節因子、EDS1PAD4が正の調節因子であることが示唆された。また、光ストレスによる葉のPCDと冠水ストレスによる通気組織形成との関係を調べた。正常な酸素濃度下で、lsd1株に特徴的に見られる、葉で広がった細胞死であるRunaway Cell Death(RCD)が起こったロゼット葉を持つlsd1の胚軸と、7日間冠水処理をし、葉のRCDが見られるlsd1の胚軸の両方において、通気組織発達が見られなかった。通気組織形成時のLSD1による制御は、葉のPCD時のLSD1による制御とは独立していることが考えられる。

これらの結果より、シロイヌナズナの胚軸と根においてH2O2やエチレンシグナルにより引き起こされる通気組織形成はLSD1EDS1PAD4によって制御されることが示唆された。また、通気組織形成におけるPCDを引き起こすシグナルは、光ストレスによる葉のPCDと関係している部分もあるが、それらは独立して起こることが示唆された。

興味を持たれた方は是非ご参加ください。  松澤勇介